メモ用紙に似顔絵らくがきシリーズ①

升田幸三
「私も、まだまだ将棋、わかっとらですよ。
だからぼくは、三タイトルとったり、名人に香落ちに指し込んだりして勝ったときに書いたのが、
 たどりきて未だ山麓
という言葉でしたよ。
これが当時のいつわらざる心境でしたし、この心境はいまもなお変わっていません。
 名人になった人でもこうなんだから、いわんや初段や二段、五段がね、将棋がわかったなんてあり得ない。
 ぼくらその五段や六段の生意気盛りのころ、ぼくらより弱い、あるいは段位が同じか、もしくは段位が上でも弱い先輩がいましたが、それでも先輩の前に出ると、平身低頭したものでした。
 先輩がこわくなってきたりしだすのは、ふしぎに将棋が一番伸びる時期です。
 これはまぁ、おとなになってから感ずることでもありますが、やっぱりこわい人がいるということが、人間、幸福なんじゃないですか。こわい人だらけのときが、一ばん幸福なんだ。
 それを不幸と思うようでは、底が知れている。」

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